今更会

今さら観ていない・読んでいないとは言いづらい映画・本を読む会

【セッション(Whiplash)】

2014年製作だから全然最近ですが、表現者としては観るべき映画だと思ったので書きます。
ミュージシャンを描いた映画なんだけど、映画のジャンルとしてはサスペンスに近いと思う。心理描写がえげつない。

 

ジャズドラマーの若者。音楽家の家系ではないが、アメリカ最高峰の音楽学院でジャズを学んでいる。
音楽学院の教授。優秀な学生たちをビッグバンドとしてまとめ、厳しい指導によって率いている。

若者が教授に出会い、見出されるところから物語は始まる。
この教授が曲者で、曲者通り越して完全にサイコパス。今風の言い方をして「パワハラ教師」なんだけどそんなもんじゃない。「アメとムチを使い分ける」という言い回しも生易しい。
学生たちに暴言や無理難題、ときには人種差別的な言葉まで吐き、恐怖でバンドを支配していく。もちろん主人公の若者へも苛烈な指導が待っている。
しかし若者は、教授の厳しい指導に比例してドラムにのめり込む。恋人や家族も顧みず、一心不乱にスネアを叩き続けて。両手は血にまみれて。やがてある日……。
ここまででもう教授が怖すぎてトラウマになりそうだった。

 

芸術として最高をやるために、ここまで人間性を捨てなければいけないのか?と最初は思う。
これは映画でフィクションだからふたりとも極端なだけなんだけど、本質としては終盤で教授が語る「人を駄目にする2つの単語」に収斂している。
もうわたし個人としてしばらく表現活動をやってないんだけど、目の前に突きつけられた言葉だった。これはぜひ実際に映画で観てもらいたい。

 

と、ここまで胸糞で痛い辛い展開ながら、ラストシーンですべて噛み合った。
身体を痛めつけてまでビートを刻むことに没入するドラマーと、狂気に近いそのビートを手中に得ようとする指揮者。
その鬼気迫るセッションがビッグバンドを巻き込んで、音楽の至上の悦びにたどりつくまでの奇跡の10分間、ずっと前のめりで観てしまった。

 

 

以下余談です。(恒例コーナーにしたい)

・原題の”Whiplash”とは。作中で演奏される楽曲名を指しつつ、英語の意味としては「むち打ち症」。ドラマーの職業病。X JAPANYOSHIKIがなってたやつ。
デミアン・チャゼル監督は『セッション』のあと『ラ・ラ・ランド』を撮る。いま観たら印象変わるだろうなあ……。