今更会

今さら観ていない・読んでいないとは言いづらい映画・本を読む会

【ノルウェイの森】

わたしにとって村上春樹は「題名はみんな知ってる」「主人公がすぐセックスする」「地の文がまどろっこしい、文体模倣で笑えるレベル」「村上龍じゃないほう」くらいの認識で、いっさいの小説を読んだことがなかった。読む前に評判でお腹いっぱいになるとでも表現すべきか。
いい加減、読まずに評価するのは止めにしよう、と思って、自宅の夫の蔵書を手に取った。ちなみに夫は春樹をそこまで好きでない。なのになんで持ってるの?と聞くと、「学生時代に一応読んだんだけどそこまでハマらなかった」とだけ。まあベストセラーではあるから持ってても不思議ではないよな。

この小説は、三十七歳の「僕」が十九歳のころを思い出すところから始まる。直子というひとりの女性を回想の軸にしながら、直子と出会った頃の話、学生寮のルームメイトの話、先輩とその彼女の話、大学の同級生の話、その同級生の親の話、と、物語は淡々と進んでいく。ように見える。仄かに死の香りを漂わせながら。


ひとつ、印象的な一文があって。高校時代に「僕」の親友が自殺し、その出来事について考えを整理しながら「僕」はひとつの真理にたどり着く。

生は死の対極として存在しているのではなく、その一部として存在している。

 

生まれたからには、各位に死という結末が用意されている。いつその結末を迎えるかは分からない。その重圧に耐えかねて自ら死ぬ者もあれば、病に冒されて苦しみながら死ぬ者もある。
そうやって、近しい人々の様々な死を経て、それでも自分の居場所を見つけて生きていかねばならない悲哀。十数年経って過去は遠くにあるけれど、「大切なひとを失った」という感情だけ鮮やかに蘇るような、切なさ。
(そしてセックスは生きている人間としかできないと考えれば、わたしとあなたの生きたしるしのために、肌を重ねるのもやむを得ないであろうという価値観が通底している小説なのだと思う)

これは学生時代に読んでいたら、きっと引きずり込まれていたなあ……と思わされる読書体験だった。

 


あとは余談。

・『涼宮ハルヒの憂鬱』というライトノベルがあって、春樹に影響を受けてたのか……と今更になって気付く。現象から一定の距離を置く主人公と、その淡々とした語り口。著した谷川流と春樹、実は同じ兵庫県西宮市に所縁があるのです。

・『ノルウェイの森』を読んだ直後から『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』も読み始めて、きっとこっちが本来系の春樹なんだろうけど、最初から最後まで暗喩的で難解で、なぜこのような小説が毎回ベストセラーになるのかしらん……と思いました。

・劇場アニメ『涼宮ハルヒの消失』では、無口な少女・長門有希が『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読んでいるワンシーンがある。これもまた、互いに影響を及ぼしあう、裏表の世界についての暗喩。

・春樹のエッセイ集『もし僕らの言葉がウィスキーであったなら』はスコッチ好きには佳き本です。熟成されたウィスキーを飲むと、口では押し黙るかわりに豊かな言葉で頭いっぱいになりません? 春樹はそのような文章を書くのは得意なんだろうなと思いました。

 

 

ゆーさ